まあ、色々なご意見はおありでしょうが、これまで何回も書いた通り、僕はこの「The Village Green Preservation Society」の語り手と、「Lola Versus Powerman and the Moneygoround, Part One」の主人公は同一人物と考えています。
ふたりは同じように野心を持って故郷を飛び出し、一度は名声を得るものの、やがてその夢見ていた世界が虚しいもののように思い始めて、人生で本当に大切なものに気づいて、スターダムから去って行きます(ただし「Village Green 〜」のほうは、多分に僕の希望的憶測が入ってますが…)。
僕のイメージするストーリーによれば、この「The Village Green Preservation Society」では、これまでに取り上げた『Village Green』『Johnny Thunder』『Phenomenal Cat』『Big Sky』『Wicked Annabella』『Monica』 までが、主人公の少年時代、彼の村での生活を描いたもの。 そしてこの『Starstruck』からが、彼のロック・スター時代ということになります。 根拠は非常に薄弱なのですが、ただ「Lola versus Powerman 〜」の主役もロック・スターだったわけだし、この『Starstruck』で歌われる内容って、いかにもそれらしくないですか?
仮に僕の説が正しいとすれば、この曲の主人公は今、『Top of the Pops』でその世界の頂点にまで上り詰め、『The Moneygoround』でロック界の裏側に疑問を抱き、『This Time Tomorrow』で世界中をツアーして回るという、まさにロック・スターとしての狂騒の最中にいるはずです。 そうした、やや有頂天になった主人公が、彼を追いかけまわす、所謂“追っかけ”(昔の言葉で言うとグルーピー)に対して、「いい加減に目を覚ませ」と説教する、そんな内容でしょうか?
司馬遼太郎は「愛蘭土紀行」の旅程の中で、アイルランドに渡る前に、リバプールに立ち寄るんですが、そこでビートルズを引き合いに出して「Dead Pan Joke」という、アイルランドに特有の冗談について言及します。
「Dead Pan Joke」。司馬さんはこれを「死んだ鍋」と訳しましたけど、これは一種の皮肉な言い回しのことであって、冗談の中に相手を凍りつかせるような鋭い一言を入れるやり方。 例えばリンゴで言えば、記者会見の席での「ベートーベンをどう思いますか?」という質問に対する「好きだよ、特に彼の詩がね」という切り返し。 ジョンで言えば、ロイヤル・バラエティ・パフォーマンスでの「安い席の人は手を叩いて。そうじゃない人は宝石をジャラジャラ鳴らして」みたいなMC。 こういうのが「Dead Pan Joke」なんだそうです。 すると、ビートルズがMBN勲章を受勲した際に、旧軍人や何かが騒いだ時のジョンの「人を殺して貰ったんじゃない。楽しませて貰ったんだ」なんてのは、これはもうDead Pan Jokeの最高傑作であって、こういうのはなかなか真似したくても出来るもんじゃないです。
僕はしばらく前のエントリーで、この青年というのは「Lola vs Powerman〜」の主人公と同一人物に違いない、ということを書きましたけれども、するとこのモニカという女性は、「Lola vs 〜」でいうところの“ローラ”みたいな存在でしょうか? こちらは娼婦、あちらはニューハーフという違いはあるものの、いずれもうぶな青年が、都会に出て初めて恋する相手としては、中々ドラマチックなものがあります。
「モニカ」≒「ローラ」説。これが第一の仮説です。
ところでこの「Village Green Preservation Society」というアルバムを見ていると、全体の中に互いに対をなす曲が、いくつか含まれていることにお気づきかと思います。 たとえば「Picture Book」と「People Take Pictures of Each Other」は共に写真でつながっているし、「Phenomenal Cat」と「Wicked Annabella」は、童話的な作風が共通している、といった具合です。 すると、この「Monica」にも、ひょっとしたら対になる曲があるのかも知れない。
そこで思いついたのが、このアルバムの前身となる「Four More Respected Gentlemen」に収録が予定され、後に「Wonderboy」とのカップリングでシングル・カットされた「Polly」という一曲です。