今ではキンクスの生みだした最高傑作として評価の高い、この「Village Green Preservation Society」ですが、リリースされた当時の売り上げは、芳しいものではありませんでした。また、バンドの置かれていた状況も、決して良好なものではなかったのです。 このあたりの事情は、前回の「All Of My Friends Were There」のところにもちょっと書きましたが、当時のキンクスには、アメリカでのプロモーション禁止に始まって、曲の版権に絡んだマネージメントとの争い、ピート・クエイフの脱退、チャートからの脱落と、まるで良いこと無しの状態が続いていました。
さて、ここで話はハウリン・ウルフに戻ります。 キンクスが『Village Green Preservation Society』を作っている、ちょうどその頃、ウルフも一枚のアルバムに取りかかっていました。 「Spoonful」「Smokestack Lightning」「The Red Rooster」といったブルースの名曲を、当時流行のサイケデリック風にアレンジしてレコーディングし直した『The Howlin' Wolf Album』がそれです。 自分の名前を冠して、一見自信作にも見えるタイトルですが、彼自身は、そのように流行に媚びを売るような行為を、決して心良くは思っていませんでした。 レコーディングを拒んで3日間自宅に閉じこもり、リリースに際してはジャケットにデカデカと “This is Howlin' Wolf' s new album. He didn't like It. He didn't like his electric guitar at first either.” (これはハウリン・ウルフのニューアルバムである。彼はこれを嫌っている。彼は始めエレクトリック・ギターも嫌っていた) とプリントして憚りませんでした。
そこでふと思うのですが、この「Last of the Steam-Powered Trains」を執筆しているレイ・デイヴィスの脳裏に、ハウリン・ウルフのこのような頑固な精神が、ひょっとしたらチラついていたのではなかったでしょうか? “俺は時代遅れのブルース・シンガーの生き残りだが、流行になんて乗る気もないね”
でも、まあそんなのばかりじゃなくて、ちゃんと褒めてくれているのもある。 「ステージに立つというその存在自体が、観客に熱狂と無条件のエクスタシーをもたらすことのできるミュージシャンがいる。キンクスのフロントマン、レイ・デイヴィスが、轟く拍手の中ステージに立った時、時間があの頃に逆戻りしたように感じられた」(Liverpool Sound and Vision)
まずこちらがツアー初日、9月30日のカンタベリーでのセット This is Where I Belong Autumn Almanac Dedicated Follower of Fashion In a Moment See My Friends Sunny Afternoon Dead End Street Till The End Of The Day Where Have All The Good Times Gone? I'm Not Like Everybody Else Waterloo Sunset Too Much on my Mind Long Way from Home Lola Muswell Hillbillies Oklahoma USA Misfits Sleepwalker Full Moon Come Dancing You Really Got Me All Day And All Of The Night Low Budget
で、これが翌日のマンチェスター公演 This Is Where I Belong Autumn Alamanac Dedicated Follower Of Fashion In A Moment See My Friends Sunny Afternoon Dead End Street Victoria 20th Century Man Till The End Of The Day Where Have All The Good Times Gone I'm Not Like Everybody Else Waterloo Sunset Lola Muswell Hillbillies Oklahoma USA Misfits Full Moon All Day And All Of The Night Days
ざっと見ると、カンタベリーの方が3曲ほど多いですね。 それも「You Really Got Me」とか「Come Dancing」みたいな有名曲を、この日にだけやっているので、マンチェスターがちょっと気の毒です。 逆にマンチェスターだけでやってるのは「Victoria」と「20th Century Man」と「Days」ですか。 まあ、どちらかと言えば、カンタベリーの方が得した気分にはなるでしょうが、でも僕なんかからすれば、レイ先生のステージが観られるというだけでもありがたいわけで。